東京地方裁判所 昭和42年(借チ)2075号 決定 1968年5月22日
賃借人 柿沼秀雄
右代理人弁護士 材津豊治
賃貸人 熊木登
右代理人弁護士 牧野寿太郎
主文
賃借人は賃貸人に対し、別紙目録第一記載の土地について有する借地権及び同第二記載の建物を代金四七〇万円で譲渡することを命ずる。
賃借人は賃貸人に対し、前項の建物に存する抵当権設定仮登記の抹消を得た上で、右建物の引渡及び所有権移転登記手続をなすべく、賃貸人は賃借人に対し、右建物の引渡及び所有権移転登記手続と引換えに右代金の支払いをすること。
理由
一、本件借地関係の経過は、次のとおりである。
1 賃借人は、別紙目録第一記載の土地(本件土地)を、その所有者である賃貸人から、昭和二〇年頃普通建物所有の目的で期間の定めなく賃借し、その地上に別紙目録第二記載の建物(本件建物)を所有してきた。
2 ところが、賃借人は昭和三五年七月頃から賃料の支払いを怠たり、賃貸人の催告にも応じなかったので、賃貸人から昭和三七年六月三〇日賃貸借契約を解除され、昭和三九年一月建物収去、土地明渡の訴を提起された。
右訴訟は調停に付せられ、同年一二月二二日両者の間で改めて本件土地について、非堅固建物所有を目的とし、期間を昭和四〇年一月一日から二〇年と定める賃貸借契約をすることとし、かつ、賃借人から賃貸人に対して金一〇〇万円を支払う旨の合意が成立し、賃借人は昭和四〇年一月及び二月に、各金五〇万円の支払いをした(なお、先の借地契約に関しては、権利金等の授受はない)。
3 その後賃借人は新潟県に移住することとしたので、本件建物及び借地権を村松孝に代金四五〇万円で売却するについて、賃貸人の承諾を求めたところ、賃貸人は本件土地を自ら使用する必要があるとして買受けの申入れをした。しかし、代金について話合いがつかず、結局本件申立てとなったものである。
二、賃貸人による本件借地権及び建物の買受価格について
1 賃借人からの借地権譲渡許可申立及び賃貸人からの借地権及び建物の譲受申立は、いづれも適法であるから、後者の申立を認容し、相当の対価を定めて譲渡を命ずるべきである。
2 鑑定委員会は、借地権の対価を金五八四万六、一五四円、建物の対価を金三〇万円としている。右借地権の対価は、次の方法によって算出されている。
本件土地の更地価格を三・三平方米あたり金二一万円、借地権割合を七五%、建付減価を五%と認め、本件土地の借地権価格を合計五四九万五、七二六円とする。賃貸人の買取価格決定にあたっては、名義書換料に当る額を控除するものとし、右借地権価格の一〇%を控除する。次に、賃借人が金一〇〇万円の権利金を支払っており、残存期間がなお一八年あるとして、一〇〇万円の二〇分の一八にあたる金額は、賃貸人から賃借人に返還すべきものとして、借地権価格に加える。以上の計算によるものである。
3 当裁判所は鑑定委員会の意見を基礎とし、前記事情を考慮した上で、次のとおりに定める。
鑑定委員会の意見によると本件借地権の客観的な価値は約五五〇万円であり、賃借人が前記村松に譲渡する場合の予定価格は四五〇万円である(本件記録に示されたところでは、建物の売買を目的とするが、代金額は借地権の価額によるものであり、賃借人の主張する更地価格三・三平方米あたり一六万円の約七五%にあたるものである)。賃借人が譲渡しようとしている相手方との間の具体的な予定価格はその当事者間の特殊の関係によって左右されるものであるから、これをもって直ちに一般的に取引可能な価格とみることはできないが、本件については当裁判所は一応前記両価格の中間をとり、五〇〇万円をもって取引の可能な価格と認める。ところで、賃借人は本件借地権の取得にあたり、一〇〇万円を支出している。従って、賃借人は本件借地権の譲渡により、右五〇〇万円から一〇〇万円を控除した四〇〇万円を利得できる計算になる。この利得を賃借人が独占することは、公平とはいえない。すなわち、譲渡の際にはその一部を賃貸人に分配するのが相当である。ところで、本件借地権の存続期間二〇年のうち、約一六年半の期間を残している。そこで、先づ四〇〇万円の二〇分の一六・五にあたる金額三三〇万円は賃借人の保有できる利得と認める。次に、四〇〇万円から右三三〇万円を控除した七〇万円について、当事者双方の事情を考慮した上で、分配を考える。本件においては、賃借人は本件土地を必要としなくなっているのに対し、賃貸人は自己使用の必要があるとして、前記調停の時にも強く自ら買取ることを要求していたことが認められる。その他前記諸事情を考慮して、右七〇万円の約八五%にあたる六〇万円をもって、賃貸人が受けるべき利得とする。従って、借地権の価格五〇〇万円から右六〇万円を控除した金四四〇万円をもって、賃貸人の買受価格と定める。
建物の価格は、鑑定委員会の意見により、金三〇万円とする。
以上により、主文のとおり決定をする。
(裁判官 西村宏一)